3DCGと立体造形の世界
8月30日(金)マイナビセミナールームにて、造形作家の安藤賢司さんをお迎えして「3DCGと立体造形の世界」の公開セミナーが行なわれました。
3Dプリンタも活用されている安藤さんの造形チームの貴重なお話の内容をダイジェストでお伝えします。
司会進行はおなじみ株式会社マイナビの国領さんにお願いしました。
Profile
安藤賢二
ゲームやアニメ、特撮など、様々なキャラクターやメカの玩具原型を手掛ける造形作家。メインクリエイターとして原型制作を担当するバンダイのSIC『仮面ライダー』シリーズはシリーズ累計50以上のラインナップを誇り、人気商品として10年以上継続している。 |
安藤氏が手掛けた作品の一部( 画像をクリックすると拡大表示されます)
セミナー司会&インタビュー:株式会社マイナビ 国領 雄二郎氏
マイナビでは、音楽、グラフィックなどの分野から、毎回セミナー内容を変えてお送りしているのですが、
立体造形でやるのは初めての試みです。実を言うと、セミナー参加の応募が来るのか少し心配だったのですが、
今日はいつもに増して沢山の方に御来場いただいてビックリしているんです。内輪の話ですが、次回も立体造形をやろうと運営スタッフで話していたんですよ。今回の講師の方は、ゲーム、アニメのキャラクターデザインや玩具のフィギュア造形の第一人者、安藤賢司さんです。バンダイSICシリーズとして仮面ライダー、タイガー&バニーのメカデザイン、ガッチャマンクラウズのスーツデザインなど、皆さん御存知のものを沢山手掛けていらっしゃるのですが、私も安藤さんとお話させていただくのは久々です。
Q:安藤さん、こうやって皆さんの前でお話になる機会と言うのは、なかなか無いのではありませんか?
最近で知っている限りでは、V6の岡田さんとラジオで30分程お話になっていたのは覚えていますが、緊張されたりしてますか?
安藤:それほど緊張はしてませんよ。酒飲んだ時くらいにリラックスはしています。
Q:では御経歴など伺わせてください。造形作家になる前の勉強とか、キャリアはどのような感じですか?
安藤:完全独学です。
Q:では初めて造形されたのは?
安藤:プラモデルは小学生からだけど、フルスクラッチは大学になってからですね。最初はクリーミー・マミを作りました。それを見た友人が、どうしても作ってくれと言うのでロボットものを作ってみたのですが、案外メカも作れるもんだなと思ったのが最初ですね。
Q:プロになられたきっかけは?
安藤:ワンフェスに版権申請なんてなかった頃に、好き勝手作っていたら、ファミ通さんに「なんか一緒にやらない?」と誘われたんですね。当時はゲームキャラクターの模型を作ってそれを撮った写真でも「?付けとけばオッケーなんじゃないの?」と、勝手に版権もの作っておいて、後から怒られた程度で今よりおおらかでしたね。
今は写真1枚でもダメですが、ファミ通さんとの御縁はそんなところからです。
で「青木ヶ原樹海」を作ってくださいと言われて、完成したら1m四方くらいのジオラマができあがりました。
これは、わざわざ長野までキノコの型取りをしに行ったくらい、のめり込んだ作品でしたね。
Q:フィギュアの商品原形を作り出したのはいつ頃からですか?
安藤:ファミ通さんとの御縁で、雑誌の仕事が多かったので、バンダイさんのSICをやり出してからですね。
Q:SICの歴史と一緒なんですね?
バンダイの製品に原型師の名前がクレジットとして載っているのは安藤さんくらいですよね。
安藤:あれは竹谷さん※がクレジットを出してくださったからですね。
※竹谷隆之氏
卓越した造形力と、独自の解釈で描かれるデザイン力が高く評価され、海洋堂の『リボルテック・タケヤ』シリーズでは、著名な仏像を全身フル可動化してしまうという前代未聞の造形作品を現出させた造形家として有名である。
Q:でもここ5年位は安藤さんばかりですよね。
安藤:竹谷さんが自分の作品集の制作に時間をとられてしまったからだと思います。
Q:どのくらいのペースで一つの作品を作られるんですか?
安藤:だいたい月一個のペースですね。年間では12~15個ですけど。バンダイ以外からは声がかからないので(笑)
Q:予定では最近の御仕事をご紹介しようと思っていたのですが...。
安藤:諸々の事情でラフ画が一切出せないことになってしまいまして...。セミナー直前迄は良かったんですけどね。タイガー&バニーもガッチャマンクラウズも未公開か公開したばかりですのでね。
会場の模様
Q:原型師とアニメのキャラクターデザインの御仕事では何か違いはありますか?
安藤:原型制作でもアニメのデザインでも基本は変わりません。アニメは作画の都合上で線を減らす程度です。
Q:ではワークフローの方にお話を移らせていただきます。皆さん興味あると思うのですが...。
青柳さんの紙兎ロペ御存知ですよね。フラッシュだけで作られたアニメーション映画ですが、DVDのプレミアフィギュアも作られたんですよね。2Dのアニメの立体フィギュアを作る時はどうされるんですか?
安藤:作品を繰り返し観るんです。その後でラフ画を描いて、フィギュアのデザインを検討します。
Q:何枚くらいラフを描かれるんですか?
安藤:決まらない時は延々と描いてますね。
Q:劇中のポーズとか参考にされたりは?
安藤:フィギュアにした時の美しさを優先したりしています。褒めてくれるときもあれば、叱られることもありますけどね。劇中の再現は、観ている内に反映させたくはなりますね。後から出て来るキャラクターの設定とか。
このラフ画のように、キャットマンの場合はやさぐれだけど、真面目に生きてますみたいな感じだとか...。
Q:ラフ画にここまで色も付けちゃうんですね。
フィギュアの原型にも色を付けるんですか?キャストして複製するんですよね?
安藤:原型はスカルピーで作りますが、針金の芯にスカルピーをのせて着色までします。
Q:でも複製したものはどこかで塗るんですよね。同じように塗れるものなんですか?
安藤:エポキシパテで作る前は、原型を作って納品でしたが、今は複製も採ります。色も塗りますね。
Q:全部完成まで面倒見られるんですね。
安藤:大体の場合はそうですね。
Q:大体の制作時間はどの位ですか?
安藤:固定フィギュアは約2~3週間ですね。原型を型取りして複製し、着色するまでですが...。
ただ難しい話として、手作業だと型が変形したりするんですね。
そしたら仲間内から「デジタルの3Dデータで渡すと変形せずにそのまま出るよ」と聞いたわけです。
Q:そこら辺は抵抗なく?画像合成とかは早くからCG使っていたんですよね。
安藤:雑誌の記事のジオラマなどは、撮影用のベースと製品は本物ですが、背景や煙などはフォトショップで合成ですね。ホビージャパンさんとかだと、背景の合成は編集部でやってくれますが、合成までやるかどうかは納期との兼ね合いですね。
Q:その納期との兼ね合いと言うことでチームで御仕事されているんですよね。では、その安藤チームとして御一緒に御仕事をされている、造型の五島さんと、主にデジタル合成御担当の伊藤さんをご紹介いたします。
この3人でいつも御仕事されているんですか?
安藤:他にも中島君がいますが、今日は都合で来られないと言うことで...。
Q:では五島さんから御仕事の分担内容などを。
五島:安藤さんがデザイン画を描いてはいますが、それを丸ごと作ることはなくて、パーツ等を作っています。
Q:どのくらいの作業割合なんですか?
五島:ジオラマの場合は安藤さんのラフ画のイメージに近付けて行くのですが、スケジュールの関係で、作れる場合は全部作る場合もありますが、後は分業ですね。
Q:イメージに近付けるための打ち合わせとかはどのように?
五島:暗くとか鋭くとか抽象的なんですけど、多いのが「もうちょっとね」ですね(笑)
大体、作ったものを見せて第一声目が「あ~こうじゃないんだよね」ですから...
安藤:いつもそうは言わない(笑)
Q:会場の後に飾ってある巨大作品もそうですか?
五島:女の子の頭の原型は安藤さんが作りました。
私がシリコンゴムで型取りして、注入した造型剤が万遍なくいきわたるまで型を振り続けて、5体抜いたものを安藤さんが壊すんです(笑)20kgある型を7月の暑い最中に5体分振り続けるんですからね。私のような体格していても凄い重労働なんですけどね。
Q:では伊藤さんにも参加していただいてお話を伺わせてください。
伊藤:先程の煙とかは象徴的ですが、着色とかをやっています。
安藤:私がやるとフォトショップで20倍くらい時間がかかることを彼女はデジタル彩色の仕事をしていたこともあって、色センスも良いですし、仕事が早くてあっと言う間に仕上げていまうんですよ。
Q:立体造形へのデジタルの導入とかも御担当なんですよね。3DCGで形状を作ると言うことに抵抗はなかったですか?
安藤:タイヤとかは真円であるかとかの問題もあって手では作らないんですよ。腕とかは右腕作って左腕に反転してみたり。
Q:考えてみたら足とか胴体でもシンメトリーな部分は沢山ありますよね。
安藤:後は3Dプリンタで出力したものをモーターツールで磨いてゆくわけです。
Q:いつ頃から3Dプリンタの導入を考えられていたんですか?
安藤:3~4年前からですね。
Q:それは安藤さん御自身の提案からですか?メーカー側からの提案なんですか?
安藤:ある人がやっているのを見て、これいけると思ったからでしょうね。タイヤとかは自分で作るより、立体コピーのようなものですし、スケール違いが簡単に出せたり、これで作った方がよいものもあると言うことでしょう。デジタル処理は伊藤さんと言うことで、今回はメダルをShadeで作ってもらいました。今迄は、小さなものを手で作っていたんですが、小さ過ぎると型ズレや変形が起きやすいようなのです。データで作ればそう言うことはないと言うことで、CGソフトで作ったと言うのは初めての試みですね。
Q:初めてShadeを使われて、こう言うところが大変と言うのはありましたか?
伊藤:立体を起こす時には、テンプレートをトレースしているので、Illustratorでもベジエ曲線は使い慣れていましたし、意外と簡単でした。
安藤:もう完全にデジタイズされているので、原型がデジタルデータしかないんですね。
実際にShadeを使って作成したイラスト&3Dデータの一部
安藤氏のラフ画 | ラフ画をトレースしたイメージ |
トレースデータをShadeで立体化 | プレビューレンダリングで立体を確認 |
Q:それは他の造型作家さんでもそうなんですか?
安藤:造型作家でそっちの方にシフトしている方は最近多いですね。松宮さん※もそうだし...。増えているのは実感しています。自分でも勉強しようとしていますし...。原型製作において3DCGは欠かせないものになってきていますね。2週間しか使っていないのに伊藤さんが使えてしまうところにも影響を受けていますが(笑)
伊藤:モデリングの上で形状を統合するのにブーリアンを使うと言うのを最近知ったばかりなんですけどね。
※松宮誠一氏
とある模型の原型師。Hobby Japan誌でライターも勤め、Wonder Festival等のガレージキットイベントではModel Countryで参加。 最近はフリーでプラモデルやTOY原型をCAD設計、モデリング中。
国領:これから伊藤さんの負担が増えると言うことですね(笑)。3Dプリンタでの出力と言うことでは、あそこにShadeの形状集のロボットをSTLで出力して、インターカルチャーさんでプリントしたものがありますが...。これはイーフロンティアのスタッフの方にデータの編集を手伝ってもらったんですが、もの凄く細かい造型なのに、たった6パーツだけと言うのは凄いと思いませんか?
安藤:組み上げるためにはパーツが少ない方が良いのですが、そうするとディテールも犠牲になったりするものだとばかり思っていたのが完全に覆されました。普通、部品のパーティングラインとかを消さなくてはならないのに、6パーツにしてしまったら、例え細かく出力できてもどうやって消そうかと心配していたのですが、無用の心配でした。タイヤの溝とか、艤装だとか、プラモデルだと6パーツじゃ済まない形状のディテールがあるんですよ。あの造型だと少なくとも2桁の後半は行ってしまうほど部品が必要になるはずです。
また意匠チームでも使えると感じています。アニメにも活かせるでしょう。オブジェクトが納品データになる日も近いでしょうね。一枚絵で納品したものが、ガッチャマンクラウズ等では3Dデータになっていて、あまりにできがよかったので正直びっくりしました。スケールモデルでも活用できますしね。可能性と応用範囲は高いと思います。
Shadeのアンロックデータ集「 STRONG ARMS 」を元に3Dプリント
( 画像をクリックすると拡大表示されます)
※3D SystemsのProjet3500を使用 |
安藤氏に着色していただいて完成したモデル
安藤さんとは20年来のお付き合いですが一番沢山お話していただきましたね。
また良い意味で、こんなに喋る人とは思っていなかったので楽しいお話が伺えて楽しかったです。
貴重なお話ありがとうございました。
あとがき
この後、質疑応答とShadeのデモがあり、盛会のうちに催しは終わりました。様々な質問にも笑顔で応えられた安藤さんですが、中でも印象に残った言葉がありました。実際に手を動かしてモノを作ることと、3DCGの違いをどう思うかと言う質問に、「数ある道具と同じ感覚です。この先、進化すれば、さらに使えるものになると言う意味でも道具の一つですね」と答えられたことでした。マイナビでは今後も多彩なセミナーが開催されます。皆さんも是非一度参加してみてくださいね。
Shade 3Dについてご興味がある方は、無料体験版を用意していますのでぜひご利用下さい。