セミナーレポート:建築と3Dプリンターセミナー(前編)
昨年末、マイナビセミナールームに杉山貴伸さんをお迎えして、「建築と3Dプリンターセミナー」を開催いたしました。
そのダイジェストを2回にわたりお伝えいたします。
セミナー司会(MC) : 株式会社マイナビ 国領 雄二郎氏
MC:大阪からわざわざお越しいただきありがとうございます。
杉山:よろしくお願いします。
MC:空間プロデューサーとはどのようなお仕事なんですか?
杉山:建築設計士と言うことにはなるんですが、設計施工の知識があって、 導線計画やお金の世話までできる人と言うのは意外と少ないんです。 いわゆる総合プロデューサーのようなものなんですけどね。
MC:もともとは設計をされていたと言うことですね?
杉山:はい、そうです。
MC:プロデューサーと言う名前が曖昧な感じですが、同業の方には設計ができない人もやっていらっしゃったりするんですか?
杉山:私自身は設計もするし、3DCGもできると言う感じですが、中にはグラフィックデザインの方から転進されて来た方もいらっしゃいますね。
トータルな空間を提供する職業だと思います。
MC:建築士なら設計料と言う形なんでしょうけど、空間プロデューサーは場を売るって感じなんでしょうか?
杉山:曖昧ですが、海外だと設計料として値段が設定できない場合もあって、 施行現場の全ての環境をコントロールして幾らと言うことからプロデュースと言う言葉が使われるんですね。
MC:それでは具体的な作例を拝見しながらお話を進めましょうか。
杉山:これは大阪の事例になりますね。
MC:空間プロデューサーの業務では、
杉山:スタッフにも設計士はいるのでアテンドしたりはしますが、私も設計します。
MC:この例はオフィスですか?
杉山:シェアオフィスと呼ばれるものですね。自社の上の階にあるんですが、 雰囲気が良くなるので、無垢のフローリング材を使ったら、乾燥して反るんですね。
今は収まりましたけど。大変でした。
次のこれはワインバーです。オフィスや住宅もやりますね。
(写真のような3DCGパースで数点見せていただきました)
MC:お仕事はどのように進められていくのでしょうか。
杉山:店舗の場合は、クライアントがやりたいことがあるので、それを良く咀嚼することから始まります。
例えばこのワインバーの場合は、ワイン倉庫の中に樽があるようなイメージをモチーフにしていますが、 考えているだけではイメージがうまく伝わらないので、3DCGを起こして了解をとることが多いですね。
MC:建築パースの役割は重要なんですね。
杉山:図面が判る人ばかりではありませんのでね。
お客様は絵にしないとプランがわからないこともあるんですよ。
昔から商業建築では手描きのパースを見せていましたからね。
MC:現在でも手描きのパースを使われることはあるんですか?
杉山:減って来てはいるんですが、また戻る可能性もあるのではないかと思っています。
8年前に開業した当時は、CGパースじゃないと見ないような感じだったので、必然的にCGパースでのプレゼンの頻度が上がったのですが...。
MC:CGに移行した頃は何時ですか?
杉山:学生の頃、私は手描きのパースがめちゃくちゃ下手だったんですね。
A0の紙に、三面図から透視図としての消失点を決めて描くんですが、出来上がるパースは用紙の中央に小さくしかできなくて、それに着彩すると中学生の絵みたいになっていたんですね。
アングルを変えるのもまた一から描き直しでしたので、嫌になってCGでやろうとしたのですが...。
17年前に初めてCGのことをやり出した頃は、とにかく情報が無くて、手探りでやっていました。
で、その頃にShadeと出会ったんですね。
Shade 4 debutと言うのが低価格で出たばっかりの頃で、これならやれると飛びついたのは良いのですが、当時はレンダリング20時間とか当たり前でしたので、一日がかりでやっても満足行かないわけです。
納期を考えると、モデリングはその20時間の前に出来ていないといけないわけですし、手描きとどっちが早いだろうとか迷いましたね。
MC:これはその当時の習作ですか?凄いですね。
杉山:学生時代のコンペで作ったガレージのプランですね。
Shadeのレンダリングは当時から綺麗だったんですよ。
マイナビ国領氏(左)とライフサイズ杉山氏(右)
MC:いつ頃から手描きのものよりCGのほうが高いクオリティとなった
杉山:情報が集まって来た1~2年後ですね。周りはまだ手描きばかりでした。
クライアントさんからのオーダーも、10年位前からCGパースがどんどん増えて来て、綺麗か下手かで淘汰され出したのもこの頃からですね。
でも、手描きでもCGパースでも勝負するところは同じなんですよ。
ただCGパースだと最近では写真のように綺麗じゃないとダメになりましたね。
MC:この作品も写真にしか見えませんよね。
杉山:オーダーを請けて大体一週間ですね。モデリングは一時間で終わってしまいます。
アングルのチェック、色味のチェックなどが入りますので、納品までは1週間から10日位ですね。
アングルを変えた後にレンダリングするわけですが、印刷用の高解像度レンダリングは時間がかかりますので、先に低解像度でチェックするわけです。
クライアントは色々なアングルで見たいわけですからね。
最終的な手段として、静止画としてのパースでなければ、ウォークスルーアニメや、建築模型を作らなければならない。
MC:そこから今日のテーマである3Dプリンターにつながるわけですね。
3Dプリントの話は後で参加していただく平本さんと御一緒にしていただくとして、今日は手描きのパースも見せていただけるんですよね?
杉山:これは展示会のブースの手描きのラフスケッチです。
3案描いて、それぞれをCGパースに起こして提案しました。
什器の設計なども行なっています。
MC:CG画面を作る方とラフを描く方は分業なんですか?
杉山:自分でも一通りできるんですが、全部一人でやっていると他のことができなくなってしまいますのでね。
MC:現在は海外でも分業されていらっしゃるとお聞きしましたが...
杉山:東京、大阪とベトナムでやりとりをしています。
ベトナムは技術者が少ないので、テクニカルじゃない部分を海外でやってもらうことにしています。
モデリングは海外ですね。人海戦術でやれますので。
MC:ベトナムでの作業比率は何パーセント程度なんですか?
杉山:30%位じゃないでしょうか。
モデリングでパース作ってねと言うことだと70%位行くと思います。
海外の依存度は全体の3分の1と言った感じです。
海外制作のクオリティは少し落ちますけど、指導次第で差は少なくなります。
ベトナム人の平均月収は25000円程度で、技術者だと4~5万円なんです。
日本語が話せると8万くらいですが、それでも国内よりは随分と人件費は安くて済みます。
MC:手描きの時代との差はどんな所ですか?
杉山:CGパースがあると施行現場が判りやすいと言うし、提案にブレが無いんですね。
ただあまりにもリアルだとトラブルの原因にもなります。
クライアントが漠然と夢を見る余地が少なくなってしまうんですね。
もともと私の本音を言えば、フォトリアリズムには反対なんですよ。
CGパースでは想像の余地が無くなるからです。
手描きのパースには「きっと良くなる」と言った夢がありますが、 CGパースには「パースと一緒ですね」と言う程度の感想しかわかないですし...
手描きは「ほう、こうなるんや」って感動があります。
でも現実には、まだフォトリアルなパースが要求されることの方が多いんですよね。
MC:仕事のテンションとして意識の違いはあるんですか?
杉山:提案書からの仕事もありますが、ゼネコンさんが相手だと提案書だけと言うことになります。
その場合は完全にフォトリアルなパースのみですね。
でも手描きだからCGだからと言ってモチベーションの差は無いですよ。一緒です。
むしろクライアントさんのやる気に左右されると言うか、どうしても実現したいという気持ちに突き動かされることはありますね。
後は豊富に経費がかけられれば、より頑張れますけど(笑)
でも作り込めばうまく行くわけでもありませんのでね。
これなんかもコンペでは落ちた作品ですし...。
MC:学生時代からShadeを使われていると言うことですが、将来の展望をお聞かせください
杉山:Shade 3Dのバージョン14から3Dプリントへの対応が始まりましたね
Shade 12くらいからUIも大きく変わって、
数値入力も充実しましたし、
先程の建築模型への3Dプリントの応用の興味もあって、
…この続きは、杉山氏のShade 3Dからの3Dプリント初体験の感想談などを伺います。
また、
杉山 貴伸
1978年大阪府出身。建築設計・空間プロデュース事業などを主軸とした総合計画事務所(株)ライフサイズ代表取締役。
執筆活動や、大学・専門学校で講師等も勤める他、海外(特にアジア圏)での3DCAD、
著書に「Shade+CAD 建築&インテリアプレゼンテーション」「VectorWorks+Design」(いずれもBNN新社)等がある。